【HQ】片翼白鷺物語(カタヨクシラサギモノガタリ)
第5章 フォトジェニックな彼ら
並んで歩く、ただそれだけで妙な安心感がある。朔弥は数分前までの心許なさをすっかり忘れて、足取り軽やかに街を歩く。
あれほど自身を悩ませていた擦れ違う人の視線も声も、今は全く気にならない。もちろん、突然声をかけてくるような人物とも遭遇しない。
呼吸がすこぶる楽な感じがする。体の至る所にピンと張り巡らせていた見えない糸が、はらはらと音を立てて解けていくような、澄んだ水の中にとぷんと帰る魚のような、リラックスした心と体。自分が自分であることを許された、そんな当たり前のことを当たり前にできる喜びが、指先まで瑞々しい命を活き活きと廻らせる。
なんでだろうなあ、と特に解答を求めない疑問を浮かべて笑みを零す。いつにも増して上機嫌な朔弥を見て、隣の牛島が不思議そうに首を傾げた。
「ありがとうございましたー!」
紙袋に入った新品のシューズに、ほくほくと二人は頬を緩める。
インターハイ予選に向けて、猛練習を続ける彼らのシューズは酷使され随分とくたびれてしまっていた。
そろそろ新しいのに買い替えようかなあ、と呟いた朔弥の声に賛同した牛島と、月に一度は通う馴染みのスポーツ用品店へ二人で行くと決めたのは昨日の夜だ。急な約束だったから牛島の午前の先約を優先させて先に一人街へ出ることになったわけだが、そのせいで負った精神的ダメージなど今となっては瑣末なことだ。
今回街へ出て来たその一番の目的を果たしてしまった彼らは、とりあえず昼食でも食べようか、と適当なファミリーレストランの自動ドアを潜った。
「牛タン定食一つと、」
「ビーフシューのBセット、ライスは大盛りで」
以上でよろしいでしょうか、と注文を復唱したウエイターが席を離れる。ドリンクバーは頼まない。長居するつもりもないし、と朔弥は氷水で喉を潤した。
「相変わらず好きだねえ、シチュー系」
「美味いからな」
「まあ、たしかに美味いけどね? 昨日の晩もシチューだったじゃない、」
それも二回もおかわりしてさ、と皿の縁ギリギリまで注いで貰ったシチューを盆の上に零さぬよう慎重に席に戻った牛島の姿を思い出して笑う朔弥に、天童もそうだがおまえたちは食わなさ過ぎるんだからもっと食え、と苦言を呈す。
他愛のない会話。日当たりの良い席で二人、穏やかに時間は過ぎていく。