【HQ】片翼白鷺物語(カタヨクシラサギモノガタリ)
第5章 フォトジェニックな彼ら
「はいっ、ストーップ!」
「!」
急激に視界が閉ざされ、肌を刺すほどの不穏な空気を放っていた牛島はひゅっと息を吸う。
恩人である及川に対して見当違いの怒りをぶつけた牛島の両の目を、がばりと両手で目隠しした朔弥が、そいやっ、と彼の膝裏に自身の膝を押し当てる。かくん、と強制的に曲げられた膝が牛島の体勢を崩した。
強く地面に膝をつくと怪我をするかもしれない——そこまで計算した朔弥が、解いた腕を素早く脇の下に通して、ふんぬ、と踏ん張る。
「?!」
「う……またウェイトアップ、したんじゃないっ?」
一瞬の出来事に呆気にとられた牛島が、懸命に己を支える腕が朔弥の物であると知覚した途端、我に帰った。
ぐっと態勢を戻し、勢い良く振り返ると朔弥の肘を慎重に掴む。
「肘は、」
「ん、平気。怪我自体はもうすっかり完治してるって前にも言ったよね?」
若利の一人や二人支えるなんてわけないよ、と掴まれた左腕でガッツポーズを作って見せる。
「こんな図体のデカい奴、二人は無理でしょ朔弥ちゃん」
砂埃を払った及川がイテテと尻をさすり立ち上がる。飲みかけのラテは、と地面に目を向け——一つ息を吐き諦めた。
「及川君はね、俺のこと助けてくれたんだよ」
「……助けた?」
朔弥は、ことの経緯を掻い摘んで話す。黙って聞いていた牛島が、話を最後まで聞き終わると、そうか、と一言言って頷いた。
「その怪しい奴はもういないんだな?」
「え、うん」
「……そうか」
「うん。だからとりあえずその力一杯握った拳を解こうね?」
「そんでもって俺に一言謝ろうね、ウシワカちゃん!」
「ああ、すまん」
ぎゃんっと吠えた及川に、さらりとおざなりに謝罪の意を伝えて、牛島は朔弥の腕を引いて歩き始めた。
「ほんっとムカつく……!」
「ごめん……及川君」
「朔弥ちゃんは謝らなくていいの! あっ、でもお礼ならいっくらでも受け取るから。今度飯でも奢ってよねー!」
「行くぞ」
背後から追いかけてきたその叫びには耳を傾けず、牛島は密やかに決意していた。今後彼と外で待ち合わせるのは控えよう、と。
学校というセーフティーエリア外で彼を一人にするのは極めて危険だ。牛島は改めてそれを痛感したのだった。