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【HQ】片翼白鷺物語(カタヨクシラサギモノガタリ)

第5章 フォトジェニックな彼ら


 真っ赤になって照れる朔弥を、じとりと胡乱な目つきで見やる。目を泳がせる挙動不審な彼の唇が、誰を思い出したのかわずかに緩んだのを及川は見逃さなかった。
「……なーんかムカつく」
「なんで! あっ、」
「ムカつくからコーヒー返して」
 ひょい、と一度朔弥の手に渡したカップを右手で奪い取ると、白い蓋に開いた小さな口からラテを啜る。抜群に甘いはずのそれがなぜかいつもよりほんのりと苦く感じて、及川は心の中で舌打ちをした。
「なんで怒ってんの……?」
「べっつにー」
 てか、なんでよりによってアイツなんだよ、他に可愛い女の子なんていっぱいいるのに、と及川は苦い顔をして考える。こいつならどんな子だって選びたい放題だろうに、と。
 容姿端麗、頭脳明晰、スポーツ万能で誰にでも分け隔てなく気を配る好青年。いまどき漫画の主人公にだってそんな奴はいない。前世でどれほどの徳を積めばこんな人間に生まれることができるのか、と考えて、否と首を振る。腹が立つほど麗しい容姿はともかく、中身は彼が彼としてこれまで築き作ってきたものだ。まったく、とんだ出来過ぎ君め。及川の口が更にへの字に曲がった。

「……ふふっ、」
「なーにー? 急に笑い出しちゃって」
「や、大の男捕まえて『仔猫』ちゃんはないよな、って」
 なにがツボに入ったのか、くつくつと笑みを零す朔弥の右頬を、危機感なさすぎ! と眉を跳ね上げた及川が左から回した手でぎゅうっと抓る。相変わらず背後から肩を抱くような密着具合でそれを食らったものだから、まるで傍目には朔弥がプロレスの技でも掛けられているように見えただろう。いひゃい、くるひい! と大笑いしながら踠く朔弥に、うるさいっ、ばーか! と小学生並みの悪態を吐いてじゃれあう及川、二人の見た目も相俟って否が応でも目立って仕方がない。
「見て見て、可愛ーい!」
「あはっ、ほんとだー」
 年頃の女性たちに注目されていると気付いた及川が、ハァイ☆と華麗にウィンクを飛ばして軟派に手を振る。
「ねえ朔弥ちゃん、ウシワカなんて放っといて俺と女の子ナンパしにいこ!」
 いかにも良いことを思いついた、と言わんばかりに弾んだ声で及川がそっと耳打ちする。
「いやいやいや及川君? それはダメでしょ、」
 朔弥が見事な呆れ顔で及川の横顔を眺める。
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