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【HQ】片翼白鷺物語(カタヨクシラサギモノガタリ)

第5章 フォトジェニックな彼ら


 良く通る柔らかい声。聞き覚えのあるその軽やかな声に振り返った朔弥が口を開く前に、背後からやってきた彼はふわりと優しく肩を抱き寄せる。
「はい、遅刻のお詫び」
 目の高さに掲げられた外資系コーヒーショップの紙コップを受け取った朔弥に、甘やかな笑みを向けていたその目が、言葉を失い呆然と立ち尽くす不審な男に、すうと向けられる。朔弥の肩に細い顎を乗せた彼の目が、じわりと暗く滲んで据わる。
「なーに? ……こいつ誰?」
「っ!」
 ひっ人違いでしたっ! と慌てて逃げ去る後ろ姿にべーっと舌を出した人物に、朔弥はふにゃりと頬を緩めた。
「久しぶりー、及川君」
「っんとに、何やってんだよこんなとこで」
 すらりとした長身の朔弥よりまだ拳一つ背の高い、青葉城西高校バレー部主将の及川徹が、顎を持ち上げ天を仰いだ。
「あのね、一部始終見てたけどありゃ相当ヤバいでしょ」
「ん? でも、人違いって」
「どうだか。それにしたって出会い系、……しかもいかにも『ヤリ目的』って感じに見えたけど?」
「うあー……やっぱ、そう?」
 カリカリと鼻の頭を掻いて小さく溜息を吐く。最近はそういうのなかったから油断したなあ、とのんびりと他人事のように言う朔弥に、及川が呆れて肩を落とす。
「まったく……いつもの怖い顔したガーディアンズはどうしたの」
「ガーディアンズって。若利ならここで待ち合わせ中なんだよ」
「同じ寮に住んでるのに? なんでわざわざ外で待ち合わせるのさ」
 それじゃあまるでデートみたいじゃん、と茶化して言った及川の言葉に、朔弥の耳が目の前でぱっと染まる。想定外の反応に、え、と及川が言葉を失った。
「……なに、マジで?」
「ち、ちがう! ただ、若利は今度のグループ合宿のミーティングで他校の主将や監督たちとテレビ会議してて、それで先に俺が出てきたってだけで、そ、そんなんじゃなくて、」
「朔弥ちゃん……首筋まで真っ赤だけど、そんなんじゃいかにも肯定してますって言ってるようなもんだよ」
 あの噂は本当だったかー、及川がつまらなさそうに呟く。
 白鳥沢の名物コンビが、ついに真の番になった。まことしやかに囁かれていたその噂話が耳に届いたとき、あのウシワカちゃんが? 朴念仁のくせに? あり得ない! と及川は笑い飛ばしたのだったが。
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