【HQ】片翼白鷺物語(カタヨクシラサギモノガタリ)
第5章 フォトジェニックな彼ら
それに俺、今まで一度もナンパなんてやったことないし無理だよ。そう言って苦笑する朔弥に、それならこの及川さんがお手本を見せてあげる! と及川はパッと朔弥に絡めた腕を離し、揚々と女性陣に歩み寄った。
「ちょっ! だからダメだってば……っ、及川君!」
慌てて引き止めようとするも、ひらりと手を振る及川の耳に朔弥の声はすうと通り抜けるだけ。
「ねーねー! お姉さんたちこれから暇? ボクらとお茶でもどう? カラオケでもいいよ!」
「ボク……? てか、さすが及川君……な、慣れてる……っ」
その華麗な手腕に、朔弥は状況を忘れて思わず呟く。しきりに感心する朔弥が遠巻きに見守る中、巧みな話術と爽やかな笑顔で幾つか年上であろう女性たちの心を瞬時に惹きつけあ及川が、くるりと振り返りこちらを指差した。
「で、あれが連れ!」
「えっ、」
急に話を振られて、びくっと身を固める。そして、及川の軽快な会話で可笑しそうに肩を揺らしていた彼女たちも、及川の指先を追って立ち尽くす朔弥を目にした途端、大きく目を瞠りびしりと固まった。
「朔弥ちゃーん、ほらっ、スマイルスマーイル!」
「ど、どうもー……、」
って、俺なにやってるんだろ? すっかり強引な彼のペースに飲まれてしまっていた朔弥が中途半端な笑みをたたえる寸前でハッと我に帰る。そのときだった。
「……嘘……っ、む、むり!」
「あ……あんなヒトの隣とか……やだ、あたし歩けないっ……!」
「へっ、あ! ちょっと!」
脱兎のごとく猛スピードで駆け去る彼女たちの背中を、取り残された及川は茫然と見遣る。しばらく棒立ちになっていたのだが、すんっ、と僅かに耳に届いた鼻を啜る音に、及川がそろりと朔弥に視線を送る。
「っ、朔弥?!」
「やっぱ、俺にはナンパなんて……百万年早かったんだ……」
グスッと片手で口元を押さえた朔弥が、見るからに落ち込む。形の良い鼻先と甘やかな目尻を淡く緋色に染め、俯き加減で長い睫毛を薄っすらと湿らせて瞬く横顔に、及川の焦りは加速する。
「ごめん及川君……俺なんかがいたから」
「いやっ、あの、……えぇー……」
「……俺さ、中学入る辺りで気付いたんだけど、さ」
言葉を失う及川の耳に、消え入りそうな朔弥の弱々しい声。