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【HQ】片翼白鷺物語(カタヨクシラサギモノガタリ)

第5章 フォトジェニックな彼ら


 ゴールデンウィーク真っ只中、人のごった返す雑踏の中でスマートフォン片手に一人たたずむ朔弥を見て、通りがかりの人々は度肝を抜かれた。
「うわあ……すっごい綺麗な人」
「芸能人とかモデルさんとかかな」
「顔ちっさ! 足なっが! 同じ人間とは思えねぇ……」
 ひそひそと話す彼らのうちの誰かが放った言葉が、朔弥に突き刺さる。
「でもさぁ、あそこまで整ってると、なーんか怖いよねー」
 ああ、どうしてイヤフォンを忘れてきてしまったんだろう。小さく溜息を吐いたあと朔弥は下唇を噛む。
 ——あんたの顔、気味が悪いのよ! キンッと目の奥の神経を弾くヒステリックな叫び声が甦る。あんな言葉にはもう慣れきったはずなのに、それでもずくりと胸が痛んだ。

 朔弥は幼い頃からずっと孤独だった。奇跡のように美しい、と幼少期に周りの大人たちから持て囃されたが、自分たちとは似ても似つかぬ我が子に対しての親の反応は散々なものだったのだ。妻の不貞を疑った父親から、DNA鑑定を受けさせられたことすらある。お遊戯会、参観日、入学式も卒業式も。ただの一度だって親が参加したことはない。間違いなく実の親子であるというのに、だだっ広い家の中で朔弥は常に異物であった。

 今でこそ感情表現が豊かで表情筋が良く動く朔弥だが、それは愛に飢えた幼い頃の彼が必死で身につけた彼なりの処世術の一つだ。笑い、怒り、哀しんで見せて。美しく整い過ぎたその造形を人らしく歪めること、そうやって人との距離を縮めてきたのだが……。
(こんな街中で一人百面相するわけにもいかないよな)
「あ、あの、すみません」
「?」
 突如として目の前に現れたのは待ち人ではない。深く被ったキャップの下の顔に見覚えもなく、中肉中背のこれといった特徴のない男の登場に、朔弥は小首を傾げた。
「俺、ですか?」
 ぱちぱちと目を瞬かせる朔弥に頬を染めた男は、キョロキョロと周りを窺い声を潜めた。
「……あの、『仔猫』さん、ですよ、ね?」
「は? こね……?!」
「驚いたなあ、写真よりずっと綺麗だ、ああ、信じられない、俺はこんな人と……」
 興奮し距離を詰めてくる相手の手が伸びる。後頭部で防御装置がじりじりと警報を鳴らした。
「や、あの、……?」
「朔弥ちゃーん、お・ま・た・せ!」
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