【HQ】片翼白鷺物語(カタヨクシラサギモノガタリ)
第3章 星に願いを【Xmas番外編】
ああ、この話題も避けたかったんだけどな、と牛島の視線を瞬時に読み取った朔弥は、やがて投げかけられるであろう問いに対する答えを舌の上に用意する。
「肘の具合はどうだ」
「万事順調、だよ」
可能な限り軽い口調で、戯けるように肩をすくめて。そうやって朔弥は牛島の暗い苦痛に彩られたその視線から患部を隠すように、するりと背を向けた。
ああ、なんだか妙な空気になっちゃったな、とひっそりと息を吐いた朔弥はトレーニングルームの入り口に並ぶ自動販売機で水を買う。隣でスポーツドリンクを購入した牛島がパキリとキャップを捻った後、すっと手を伸ばしてきた。
「貸せ。開ける」
「あー、うん……いつもごめんね」
傷めた腕ではしっかりとボトルを掴むことができないせいで、ペットボトルの蓋を開けるのが至難の技になっていた朔弥のために、こうやっていつも牛島は手を貸す。甲斐甲斐しいその様子を冷やかすような無神経な人間はチームにはいない。けれど、事情を知らない者からすれば随分と過保護に見えるようで、部外の者たちから時折からかわれたりしたものだ。
「そろそろ戻ろうか、若利。付き合ってくれてありがと」
「ああ、別に構わない」
食堂へ向かう廊下の途中、走るならやはり外の方がいいな、景色が変わらないのはつまらん、と零す牛島に同意したりしながら、朔弥はほっと胸を撫で下ろす。予期せぬ話題に途中ヒヤリとしたが、なんとか避けたい話題からは遠のいた。このまま無難に一日が終われば、という切なる願いは、食堂前にたむろするチームメイトの手に抱えられた赤と白の衣装によって打ち砕かれることとなった――。
ガヤガヤと賑やかな食堂のテーブルに、大皿に山盛りのご馳走が所狭しと並べられている。熱々のフライドチキンにポテト、野菜たっぷりのキッシュの隣には具沢山のサンドウィッチ、そしてたっぷりのサラダが彩り鮮やかにテーブルを飾る。
寮に残っているのはおおむね運動部の部員たち。トレーニング後の食事とあって、それらのご馳走はあっという間に彼らの胃袋の中へ消えていく。
もうヤケクソで「サンタが町にやってくる」と英語で歌い切ったサンタクロース姿の彼らもまた、一心不乱にフライドチキンにかぶりついていた。