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【HQ】片翼白鷺物語(カタヨクシラサギモノガタリ)

第3章 星に願いを【Xmas番外編】


「若利、ちょっとそこで待ってて」
 形容しがたい笑みを浮かべた朔弥が、牛島から少し離れた場所へと固まるメンバーを引き連れる。

 小さな円陣を組んで、そろりと声を潜める。自分たちは今、とんでもない状況に直面しているのだ、と誰かが生唾を飲む音がした。
「いない、じゃなくて来ない、てことはさ、」
「うん。若利君のあの顔、アレ、絶対信じてるよね」
 ちら、と牛島の方を盗み見る。脚立も使わず易々とトップスターをツリーのてっぺんに乗せたあと、何やら赤と白の布でできた物を先輩から手渡された彼と目が合って、引き攣った笑みを返した朔弥はパッと顔を逸らした。
「まさか現代の男子高生でサンタクロースの存在を信じてる奴がいるなんて……」
「ブフッ」
「馬鹿っ、覚、堪えろ!」
 全員揃って慌てて天童の口を抑える。とにかく、と小さく咳払いをした大平が、一層低い声で囁くように提案した。
「いいか、『サンタクロースは存在する』、これでいこう」
「だな、……ガキの頃、実はサンタは親だったって気付いた時、ショックだったし」
「英太もかあ……まあ、いずれ真実を知ることになるとは思うけど、俺はその引き金になりたくない」
 朔弥の言葉に誰もが頷き合い、よし、と全員で気合を入れた。
「ボロを出す前にこの話題は切り上げよう」
「ここはどこ向いてもサンタだらけだからね、俺がトレーニングルームへ誘導するよ」
 極秘裏にミーティングを終えた朔弥は何事もなかったように牛島の元へ駆け寄った。
「ごめん、若利。て、それは?」
「これか。サンタクロースの衣装らしい。夕飯時に俺たちでこれを着てクリスマスソングを歌え、と言われた」
 白羽の矢が立った一年で余興を行うのがこの寮の伝統らしい、おまえたちの分も預かった、と伝えられて、どんだけマジなパーティーなんだよ! と瀬見が声を荒げた。
「そ、それはさておき! 若利、飯の前にトレーニングルームで一汗流そうと思うんだけど、付き合わない? 付き合うよね!」
 持っていき方強引かっ! と冷や汗をかくメンバーを残して、朔弥は牛島の背を押し食堂を後にした。

 連れ出したは良いものの、何を話せば良いんだろう、と朔弥がランニングマシンで黙々と走る。半刻ほど経った頃、先に声を発したのは牛島の方からだった。
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