【HQ】片翼白鷺物語(カタヨクシラサギモノガタリ)
第3章 星に願いを【Xmas番外編】
色とりどりのオーナメントをぶら下げたツリー、マツボックリとヒイラギのリース、ヤドリギは赤いリボンを掛けて壁に吊るして。窓ガラスにスノースプレーで吹き付けたMerry Christmasの文字が綺麗に定着したのを見て、朔弥は、よし、と満足げに微笑んだ。
「おばちゃーん! こっちはオッケーだよー!」
すっかりクリスマスモードな学生寮の食堂で、朔弥は元気に声を張り上げた。
この白鳥沢に入って初めての冬季休暇、地元京都の冬も雪深く厳しいものだったが、宮城のそれは比ではない。吹き荒ぶ風に身を揺らす街路樹を寒そうだなあと窓越しに見ていると、背後に人の立つ気配を感じて振り返った。
「若利、そっちはできた?」
「ああ」
「だいたいは完成したね」
今夜はクリスマスイブ、この寮では帰省せず残った生徒のためにささやかだが全力でクリスマスパーティーを開くのだ、と張り切る寮母を手伝ったバレー部員たちはみんな、今夜の晩御飯楽しみだなと頬を紅潮させていた。ただ一人を除いて。
「若利君さあ、もっと楽しそうにしなよう」
「あっ、覚! またおまえは失礼なことを!」
折り紙でできた輪を繋げたガーランドを手に、天童と瀬見が歩み寄る。ん、と目を瞬かせた牛島は、表情一つ変えないで天童へ向き合った。
「楽しんでいる」
「見えないー! 若利君ってほんと読めないよねぇ」
「そうか」
「朔弥君、ちょっと表情筋分けてあげなよー」
「覚の表情筋こそよく動くんだから、自分でどうぞ! 英太はだめだぞ、怒った顔の若利しか見れなくなる」
「おまえら……!」
じゃれあう三人を見下ろしていた牛島の肩を、ポンと叩く手。視線をやると大平が立っており、持っていた大きな星のオーナメントを牛島へ差し出した。
「サンタに頼んでみたらどうだ、若利」
「ちょっと、獅音までそんなこと言って!」
食堂内にクリスマスソングが流れ始めて、陽気な雰囲気はさらに波状する。そんな中、受け取った金色の星をじっと見ていた牛島は、だが、とぽつり言葉を落とす。
「俺の元に、サンタクロースはもう来ない」
ぴたり、と空気が止まる音を聞いた気がした。一斉に牛島の顔を見た彼らは、一様に動きを止める。冗談を言う男ではないことを全員知っていたのだが、それはあまりにも信じがたい言葉だった。