第1章 unforgiven nuit
「お邪魔しまーす」
「どうぞ」
「広い部屋」
「ツインで取ったから」
「へぇー…」
ホテルのバーで少し飲んだ後、部屋に2人で戻る。
買っておいたお酒とグラスを準備する。
「ロックでいい?」
「うん」
氷を入れたグラスにお酒を注いで渡す。
「ありがと。じゃあ…乾杯」
「乾杯」
テーブルに向かい合いながら俺達は酒を酌み交わした。
「ははっ、マジか」
「そうなんだよ。マジでイタリア女こえーって思ってさ…」
色んな話をした。
日本での生活の話や…仕事の事。大学の事。
でも肝心な…こいつの名前も俺は知らない。
聞かないまま…ここまできてしまってる。
「そう言えばお兄さんさ」
「ん?」
目の前の端正な顔を見つめると…そいつはそっとグラスを置いた。
「この部屋…誰かと来るつもりだったの?」
「………何で?」
急に真剣な表情になり、俺も…黙って見つめ返した。
「………恋人となら…ツインじゃなくてダブルでしょ。友達と来る予定だったのかなぁって。でも…会った時のお兄さん…失恋したっぽかったから…」
「………」
「ごめん。何となく気になってさ…」
「いや…。お前鋭いのな…」
「よく言われるよ」
「ふふっ」
ぼんやりと…ふたつ並んだベッドを見つめる。
頭に浮かぶ…もうひとつのベッドを使う筈だった人の顔。
お酒のせいか…名前も知らないこいつだからなのか…。
俺は…ゆっくりと口を開いた。
「………2人で…来る筈だった。でも…1週間前に言われた。『行けない』って…『もう会えない』って…」
「………」
「ツインにしたのは…予約する時に変に思われたくなかったから。男同士でダブルなんて…気持ち悪がられるだろ今の日本じゃまだ…」
「………お兄さんて…」
「俺はゲイだ。俺をフった奴は…男」
酒の瓶を掴み、俺はまたグラスに注いだ。