第1章 unforgiven nuit
「は~!美味かったぁ!」
「だろ?」
「あのシーフードリゾット神だな…」
「ふふっ、お兄さん貝ばっか食べてたね」
「好きなんだよ」
店を出た後、夕暮れの通りを2人並んで歩く。
食事も美味かったし…それ以上にこいつとの会話が楽しくて…つい長い時間話してしまった。
「ごちそうさま。奢りなんて思わなかった」
「怒らせちゃったお詫び」
「怒ってはない。ムカついただけ」
「ふはっ!やっぱお兄さん面白い」
「そう?」
大通りに出てタクシー乗り場で立ち止まる。
「さて…」
「うん」
「楽しかったよ。まさか日本人と会うなんて思わなかったし」
「俺も」
「本当にありがとう」
「お兄さん…いつ帰るの?」
「ん?明後日だけど」
「そっか。イタリア旅行楽しんでね」
「ああ」
「あ、タクシー来た」
視線の先を見ると遠くからタクシーがこちらに向かって来る。
「お前どうすんの?」
「ん?どうしよっかな…」
「帰んないの?」
「そうだな…あまり帰りたくないんだけど…帰ろうかな」
「………」
そう言うこいつの瞳が酷く寂しげに見えた俺は…何故か…放っておけなくて。
まだ一緒に居たいって…思ってしまったんだ。
タクシーが目の前で止まり俺はそのまま乗り込む。
「じゃあまたね」
ボンネットに手を着いて覗き込まれる。
「あ、あのさ…!」
「ん?」
「………俺の部屋で飲まないか?飯のお礼…。嫌で…なければだけど…」
「………」
真っ直ぐに見つめる瞳が…嬉しそうに下がる。
「じゃあ…お言葉に甘えようかな」
そして俺の隣に乗り込んで来た。
「宜しくお兄さん」
「あ、うん」
こうして俺は…まだ名前も知らないそいつを…ホテルの部屋まで招き入れる事になった。