第9章 Contenda com minha mãe
翔「覚えてる?バルセロナで話した俺の初体験の相手」
車を発進させ暫くすると、兄さんが口を開く。
「初体験…えっと………確か担任の先生って…」
翔「うん」
「………」
翔「………」
「………え?」
翔「うん」
「え、待って?兄さんの初体験の相手が担任の先生で…母さんの男を兄さんが寝とって…え?え?」
翔「前にも話したよな。母さんの俺に対する仕打ち」
「うん…」
翔「母さんと俺の中は昔から険悪だった。高校に上がる時にはもう酷かった。口を開けば怒鳴り合い。いつも俺を罵倒したり殴ったりする母さんが大嫌いだった。今思えば…父さんがゲイだったから神経過敏になってたんじゃないかって思う。引き取った息子もゲイだったらたまらないって」
「だからって…子供を抑止するのは違うよ」
翔「そうだね。でも…俺も溜まってたんだろうな。母さんへの憎しみが。ずっとずっと堪えてた。自分がゲイだって自覚してから母さんも感付いたのかな。本当に酷くて。そんな時さ。再婚するって言い出したんだ。初めて見る上機嫌な母さんを見たよ。そうやって連れて来たそいつが担任の先生」
「マジでか…」
翔「俺が高校卒業したら結婚するんだって言ってた。その時思ったんだ。この人は自分が幸せなら俺がどうなってもいいんだって。自分が不幸だから俺まで不幸にした。散々不幸にした癖に自分だけ幸せになろうとしてる。だから…絶対そんな事させないって」
「………」
暗がりの車内、運転する兄さんの横顔にキラリと涙が光った気がした。