第9章 Contenda com minha mãe
俺を睨み付けながら、母さんは思いきり腕を振り払い一歩下がる。
翔「潤。もう帰ろう」
「でも…」
翔「この人に何言っても無駄なんだ。24年間見てきた俺が1番分かる」
「………」
エレベーターのボタンを押し、兄さんが母さんに背中を向ける。
陽子「とにかく。もう来ないで」
翔「………」
陽子「翔!」
母さんが怒鳴っても兄さんは全く反応を示さず、エレベーターを待っていた。
扉が開くと黙って乗り込み、それでも一切目も合わせない。
陽子「来たら許さないから!」
翔「………」
扉が閉まるタイミングで俺は頭を下げた。
静かになるエレベーター。
兄さんがふと俺に視線を移した。
翔「ごめんな」
「いや…大丈夫」
翔「認めたくないけど、あの人が俺達を産んだ人だ」
「………何で…あんなに仲悪いの?ゲイだからってだけであそこまで憎み合うなんて無いでしょ」
翔「そうだな。でも昔からあんな感じだったよ。同性愛者を人間とも思ってない人だから。まぁ…あんなになるきっかけを作ったのは俺だけどね」
エレベーターの扉が開き、兄さんが歩き出す。
「………何があったか…聞いてもいい?」
背中にそう問い掛けると、兄さんが振り返る。
翔「………寝とったからだよ」
「え?」
翔「あいつの男を寝とったから。それであいつの人生破滅させたから」
「………は…!?」
俺が絶句して立ち止まると、兄さんはクスリと微笑み、また歩き始めた。