第9章 Contenda com minha mãe
大学の入口で10分程待ってると、パッシングをしながら車が路肩に幅寄せしてくる。
急いで助手席に乗り込むと、兄さんと目が合った。
翔「急にごめんな」
「いや…」
翔「じゃあ急ぐから」
「うん」
シートベルトをすると車が動き出す。
「………」
翔「………」
「………病院までどれ位なの?」
翔「30分位かな」
「そう。あのさ…その…お爺さん…もう長くないって…」
翔「俺もさっき電話掛かってきて初めて知ったんだよ。何で母さん言ってくんなかったんだ…」
舌打ちをしながら運転する兄さん。
その眼光は鋭くて、口調は俺の知ってる人じゃない位冷たかった。
「兄さん」
翔「ん?」
「………迎えに来てくれてありがとう」
翔「母さんに一緒に来いって言われたから」
「………そっか。そうだよね。ごめん」
そのまま、目的地まで俺達は一切言葉を交わす事は無かった。
あんな風に兄さんと離れて、どう接していいのか分からない。
雅紀との事もまだ話してない。
兄さんの気持ちを知ってしまった今、どう伝えればいいのか。
今更、兄弟に戻れるのか。
雅紀と過ごしながらそんな事ばかり考えてる。
兄さんへの気持ちを断ち切ったつもりでも。
やっぱり俺は…この人を兄だとは心から思えないでいる。
「潤」
そう呼ばれる度に、心の奥が何とも言えない気持ちになるのは。
やっぱり貴方を…。
そんな気持ちを振り払いながら、俺は病院までの景色をひたすら見つめていた。