第8章 Terminar
どの位時間が経ったのか。
ベッドにうつ伏せになったまま、部屋は暗闇に包まれていた。
「潤…」
潤の匂い。
潤の感覚が残る部屋。
もう…潤は居ない。
遅かった。
もっと早く…覚悟を決めていれば。
「愛してる…」
言えなかった言葉を、言いたかった言葉を…枕に顔を埋めながら呟いた。
潤が他の誰かを選んだ。
俺より…他の誰かを。
きっと今頃…そいつの腕の中に居る。
そう思うと…気が狂いそうになる。
「助けて…」
そう呟いてみても、返ってくるのは静寂だけ。
心が寒い。
冷たい。
誰か…温めて。
ゆっくりとポケットからスマホを取り出し、電話を掛ける。
長いコールの後、優しい声が向こうから聞こえてくる。
智『………翔くん?どうしたの?』
「………智くん」
智『………何かあった?』
かつて愛し合った人は…一言話しただけで、俺の状態を察してくれる。
それが今の俺には…癒しで、救いだった。
「………逢いたい。智くんに逢いたい」
智『今から?』
「お願い。来てよ智くん…今来てくれないと…俺…」
智『………分かった。少し待ってて。1時間で行くから』
そして直ぐに通話が切られる。
そしてまた、俺は闇と静寂に包まれた。