第8章 Terminar
「潤…出て行くって…」
潤は何も答えずに黙々と荷物を詰める。
「潤…こっち見ろよ」
潤「………」
「潤…!」
服を詰め終え、ジッパーを閉めると漸く潤が振り返る。
「潤…」
潤「何も御礼出来なくてごめん」
「そういう事…言って欲しいんじゃない」
潤「それ以上何を言うんだよ」
「実家に帰るの?」
潤「いや。知り合いのとこ」
「知り合い…?」
潤「………そう。知り合い」
「………お前と寝た男?」
潤「………」
「潤!」
潤の腕を掴むと、避ける様に視線を外す。
「………付き合ってるの?」
潤「………そうだよ。一緒に暮らそうって言ってくれた」
「………」
潤「卒業まで面倒見てくれるって。勿論断ったけど…甘えろって。だからそうする事にした。大学も近いし…先にこっちでしっかり単位取ってまた向こうに戻るよ」
「………イタリア?」
潤「………元々直ぐに戻るつもりだったんだ。遅いくらいだよ。こっちで真面目に通って…来学期から向こうに戻る」
「………卒業したら帰って来るの?」
潤「多分帰らない。誘われてる仕事あるし。ここに居ると…」
潤がゆっくりと俺の腕を離す。
「………行くなよ潤。俺の傍に…居て」
潤「………」
「もう迷わないから。お前となら俺は…」
その先を遮る様に、潤の唇が重なる。
潤「ごめん。もう無理だよ」
「潤…」
潤「ちゃんとした兄弟になれなくてごめん。でも…逢えて良かったよ。兄さんと暮らせて良かった」
「待って…」
潤「………イタリアで逢えて良かった」
そして潤は背中を向け、部屋を出て行った。
遠ざかる足音。
玄関の閉まる音。
「じゅ、ん…」
俺は…そのままベッドへと崩れ落ちた。