第3章 夏の話2
正座にさせられ、勇利の気が済むまでお説教されて、終わる時には足の感覚はすっかり無くなっていた。
「足が変だよー」
日本と違い正座する習慣が無いロシア人には
酷だったようで、長い足を崩して、不様にぷるぷる蠢いている。
ヴィクトルの足にイタズラしたいなーなんて思ったけど、生憎私も動くことが出来なかったので断念した。
でもやったら仕返しされそうだし、断念したのは正解かも。
存外この男は子供っぽいところがある。
触らぬ神に祟りなしだ。むしろ恩を売っておくべきかしら?なんて考えているうちに足の痺れが取れてきた私はすっくと立って、まだ蠢いているヴィクトルの傍に寄った。
「ヴィクトル、マッサージするから足伸ばして座って」
「こう?」
「そうそう、それで大丈夫。あ、痛かったら言ってね?」
ふくらはぎに手を当てて、優しく丁寧に揉みほぐせば、ご機嫌な鼻歌が聞こえてきた。
「気持ちいい?」
「もちろん、すごくいいよ」
ありがとうー、とお口をハートにして感謝を述べるヴィクトルにどういたしましての代わりに殊更丁寧にマッサージを続けた。
「少しマシになったら立つといいよ。その方が早く治るらしいから」
腕が疲れてきたのではい、おしまいーっと手を離せば
「えー、まだまだ立てないよー」
眉を下げてイヤイヤ、もっとしてーと駄々をこねるロシアの生きる伝説、ヴィクトル・ニキフォロフ27歳独身様。あ、おじゃる〇みたいになっちゃったな。ん、このネタ通じるかな?
ちらっと勇利の方を見たら、絶対嘘だと思う、との視線を貰ったので、私もそう思うとアイコンタクト。
「ごめんヴィクトル。腕が痛くなっちゃった。ゆっくり休んでたらそのうち治るから安静にしてて?」
「ええー」
むぅ、と頬を膨らませご機嫌斜めになってしまったヴィクトルにどうしようかと視線をさ迷わせ、目に付いたのは時計。
今は14時なので、まだまだ遊びに行ける時間だ。
「ねぇ、海水浴場行かない?」
マッサージより遊びに行って楽しいことをすれば機嫌も直るはず。
私が思いついたのは近くの海水浴場へ行くことだった。
ヴィクトルにも分かるようにわざわざ英語で勇利に話しかけると、なるほど、わかった。と頷く聡い弟。
「うん、行く、水着どこやったかな?」
その会話に楽しそうな気配を察知したヴィクトルは「俺も行きたい!」と声をあげた。