第3章 夏の話2
「はいはい、2人とも僕を挟んでイチャつかないで。ほらヴィクトル、せっかく恵利姉ちゃんが買ってきてくれたんだから溶けちゃう前に食べなよ」
勇利はガリガリしたやつの包装を剥いて、ヴィクトルに渡した後、彼がアイスを食べてフクースナと表情を輝やかせたのを見届けると、次は私に向き直り少し照れた面持ちでこう言った。
「恵利姉ちゃん、僕向こう向いてるからあーんしてあげたら?」
両方に気遣いするなんて、なんていい子…。
「勇利、あーんしてごらん、しろくまさんのアイスも美味しいよ」
「あーー!エリのバカバカ!俺にはしてくれないのに何故ユウリにする!?」
思わず餌付けしようしたら、ヴィクトルが噛み付いてきた。
「あ、勇利が可愛くて、つい」
「エリは俺よりユウリが好きなんだ、俺は捨てられたんだ、うう、ユウリ、俺のガリガリしたやつだって美味しいよ!口を開けてごらん、コーチ命令だから」
「ええー、真似しないでよ、大体それコーチ命令っておかしくない?」
「俺だってユウリにあーんしてあげる権利はあるはずだ!」
「はあ?何言ってんの?勇利!お姉ちゃんのアイス食べるよね?」
「俺のアイスを選んでくれるよね?」
二人して意地になって勇利にアイスを向けた所で弟の堪忍袋の緒が切れた。
「僕を巻き込むのやめて!怒るよ!!」
もう怒ってるじゃない、という言葉は飲み込んで、大人しくごめんなさいしたけど、愛しの弟は部屋から姿を消してしまった。
だけど私達は彼がすぐ傍にいて私達の会話を聞いている事を知っている。
「勇利に嫌われた、私死んじゃう」
「そんな、気をしっかり持つんだ!」
「ヴィクトル、これからも勇利をよろしくお願いします。あの子、自己評価は低いくせにプライドは高くて、1度決めるとなかなか曲げない頑固なところがあるから、しっかり見てて、導いてあげてほしいの。それから、今までありがとう、私あなたと恋人になれて幸せだった」
「エリ、そんな、嫌だ。俺を置いていかないで!」
「ヴィクトル、大好きよ」
もう何も思い残すことは無いというように瞳を閉じればヴィクトルもノリノリで演技する。
「エリ!エリーーー!」
そこで扉は開かれて
「だからそういうのやめてって言ってるでしょ!」
勇利に叱られた。