第3章 夏の話2
よし、釣れた!
これで暑さとマッサージから離れられる。
海水浴に必要なものとその在処を考えていたら勇利がさも心配してます、と言った声音で
「ヴィクトル足痺れてるんでしょ?無理しなくていいよ?ゆっくり休んでて」
なんて言うもんだから、危うく噴きかけた。
笑っちゃったりしてまた拗ねられたら困るので、部屋から退出するため襖を開き、振り返って水着取ってくるねーと声を掛けたその瞬間。
「大丈夫!直った!!ほら立てるよ!俺も行く!行きたい!!!」
ヴィクトルは慌てて立ち上がり、ぴょんぴょん跳ねて、痺れてないよ!とアピールしだしたので、素早く部屋から出て襖も閉めずに全力で自室まで走り、声が聞こえないように布団を被ると、お腹が痛くなるまで笑った。
必死すぎでしょ!
しかも仕掛けたのがヴィクトル大好きな勇利なんだもん、あー、面白かった。酸欠になるかと思った。
笑いが落ち着いてから海水浴の準備をして、さっきまでいた部屋へ戻ると2人も準備を終わらせていたので、マッカチンも一緒に仲良く出発した。
「ヴィクトル水着持ってきてたんだね」
「必要になるかもしれないものは一通り持ってきたよー」
ちゃんと日焼け止めもあるよ、とゴソゴソ荷物を漁ってお目当てのものを探し当てたヴィクトルはじゃーん、褒めて褒めてーと子犬のように顔を輝かせていた。
「色素が薄いし、火傷みたいになったら大変だもんね…体柔らかいし1人で塗れるとは思うけどムラになりそうだしなー、勇利、背中塗ってあげて」
「え?エリ姉ちゃんが塗ってあげなよ、彼女なんだしヴィクトルもその方が嬉しいんじゃない?」
「いやいや、着替える場所が違うでしょ?早く塗ってあげなきゃ」
「あーそっか」
私達姉弟が日本語で話していた事で会話が分からなかったヴィクトルは、俺の名前出てたけどなんの話してるんだい?と訪ねてきたので、私は何か言いたそうな勇利を制し、勇利がヴィクトルの背中の日焼け止め塗りたいって、と端折って言うと、本日2度目。顔を真っ赤にして怒った弟は懇切丁寧に先ほどの会話を英訳して伝えてくれた。
「エリは面倒臭がりなところがあるからね、ユウリが怒る気持ちもわかるよ」
「恵利姉ちゃん、ほんとそういうとこ直した方がいいよ」
ちょっと端折っただけでこの扱いってひどくないかな?