第2章 夏の話
はじめは啄むようなキスだった。
それから親指で軽く唇を開かれると、熱い舌が入ってくる。口腔内を愛撫され、舌を絡め取られると、だんだんと気持ちよくなってきて、鼻から抜けるような声が出た。
「ん、ちゅ、ふぅ…ん」
応えるように私もおずおずと動かしてみると、舌の動きが少し激しくなり、しばらくそれを楽しんでからどちらからともなく唇を離した。
銀糸がプツンと切れ、見つめ合えばなんとも甘い雰囲気…。
二人してじゃれるようにベッドに倒れ込んだ。
さて、こんな甘い雰囲気の中なのだけど、私は彼に言っておきたい事がある。
だってこのままじゃ私は彼の中でレイプ犯に脅されてるのに好きになってしまった可哀想な女になってしまう。
いやまぁあながち間違いではないけれど…あくまで私が好きになったのは、誠実に私に向き合ってくれた彼なのだ。
認識が違うのは好ましくないし、私も彼にとって誠実でありたかった。
「あの、言いにくいんだけどね、実はあなたを好きになったのって結構最近で、それこそあなたが私と付き合ってると思ってた頃なんだ」
「…What!?」
がばっと上半身を起こしたヴィクトルは、私の肩を掴み、まるで浮気した事を問い詰めるように覆いかぶさってきた。
それに怯まずに私は言葉を続ける。
「確かにあなたの事を好きってミナコ先生に言った事はあったんだけど、私の中でのその時のあなたは酷い事をしてくるのに、何故か嫌いになれないレイプ犯だった。
ヴィクトルの言う意地悪されたあとにミナコ先生がヴィクトルに何をされたのって聞いてきて…
それで本当の事が言えなくて、誤魔化して言った言い訳がそれ…。
騙してたみたいになっちゃってごめんなさい」
これで見放されたとしても仕方ない。
でも勝手に勘違いしたのは向こうだもん。
開き直って彼を見つめれば、呆然としたまま反応が無かったけど、しばらくして頭を振った彼は優しい声で話しかけてきた。