第2章 夏の話
「初めて会ったときからエリの事は気に入ってた。それは前にも言ってたと思うけど、だんだんね、俺の中でエリの存在が大きくなっていってんだ。
いつだったかバレエのレッスン見に行った時に拒絶された時は凄く悲しかったのに、エリは食堂で何もなかったみたいに振舞ってるし、そこで初めて俺に向けてくれた笑顔が可愛くて、でもそんな笑顔俺に向けるなんて有り得ないし、偽物なんだと思うと悲しくなっちゃって意地悪した。」
なるほど、あれは私の中でも苦い思い出だ。
「いっぱい意地悪したのにその後もずっと俺に笑いかけてくるし、俺はどんどんエリを好きになっていって…ある日ミナコのお店に行った時にエリを好きになったって言ったんだ。そしたらミナコに幸せにしなかったら殺すって追い出された。その時彼女は日本語で、両思いなんだからさっさとくっつけって言ってた。
その日本語、今は覚えてないけど、その時はちゃんと覚えてて、帰ってすぐにマリに訳して貰ってお前が俺の事好きだって知ったんだ」
あの言い訳がここに来て活きてきていた事に驚く。
その時はまだ好きじゃなかったはずなのに、むしろ好きになる事は絶対にないと思ってたのに…人の気持ちはどうなるか分からないものだ…。
未だになにも言えないでいると、彼は恐る恐るといった感じで、私をそっと抱きしめてきて、言葉を続けた。
「このままの関係を続けてたらそのうち嫌われる。自分勝手だって事はわかってる。でも、お前に嫌われたくない。お前をちゃんと大事にしたいって思った。エリ、今すぐじゃなくていいから、俺を信じてほしい、俺はエリが好きだ」
最後にちゃんと私の目を見て話してくれた彼を信じたいと思った。
「エリ、ごめんね、泣かないで?泣かれたらどうしたらいいのかわからない」
彼の言葉に私は初めて自分が泣いている事を知った。
悲しくも悔しくもない、これはきっと嬉し涙…。
オロオロと慌てている彼の姿に笑ってしまいそうになりながら、私は
「じゃあキスして」
と、強請った。
これが後に大切な弟を泣かした時に投げやりに使われることになるとは、業腹物である。