第2章 夏の話
「大丈夫大丈夫、ほら横になって」
穏やかな声音で優しく、でも強い力でベッドへ倒されて、彼もすぐ横に寝そべる。
布団を被せられ、私のみぞおちあたりをぽんぽんと軽く叩いたあと「おやすみー」と気の抜けた声を発し、ご丁寧に私を抱え込んでから程なくして寝息が聞こえ始めた。
この人ほんと自由だなぁー
クーラーで冷えた部屋に人肌の温もりは心地いい。
もう一度起こすのも可哀想だし、正直二度寝の誘惑には私も抗えない。
起こしにこないのならいいや、そう考えて、目を閉じた。
次に目が覚めた時にはヴィクトルはもういなくなっていて、私はその時初めて彼がいない事に寂しさを感じてしまった。
「もしかして、これって恋?」
いや、まさか、そんな…
だって脅されたし、泣いちゃった事もあったのに。
でも最近優しいし、もともとエッチの内容は別として、手酷い扱いは受けてなかった。痛い事はされてないし、終わったらちゃんと後始末もしてくれてたし、体も労わってくれてた。
自覚してしまうとだめだ。
私ヴィクトルのこときっともっと好きになってしまう。
どうしよう、こんな不毛な恋、幸せになれない。
「そうだ、合コン行こう」
最近優しいのだってどうせ私とのエッチに飽きちゃって、そのままポイ捨てしたら脅してた手前後味が悪いからプレゼントで機嫌を取ろうと思ってるんだ。絶対そうだ。
勘違い女になる前に新しい恋を探して、不毛な恋とはおさらばしよう。
誰に連絡しようか、彼氏のいない友達を脳内でピックアップしながらスマホを手にとり、連絡アプリを開くと一番上に中学時代から仲良くしてる友達の名前の下に『合コンのお知らせ』の文字。
まるで神様が私を見てるんじゃないかと思うほどのグッドタイミング。
すぐさまトーク画面を開き、日取りを確認してから参加の意思を伝えれば、しばらくして詳しい内容が送られてきた。
決戦は2週間後。
決戦だなんて大袈裟だけど、気持ち的には間違ってない。
せっかく貰ったお休みだったけど、いてもたってもいられず、温泉施設に駆け込み、仕事を貰いに行った。