第2章 夏の話
ゆっくりと意識が浮上してきて、そのままぼんやり微睡んでいると、なにかあたたかいものが背後から私を包んでることに気付いた。
穏やかな寝息が後ろから聞こえて、それに首筋を擽ぐられる。
全くこの男はいつの間に入ってきたのやら、しかも勝手にクーラーまでつけてるし…
起こすとうるさいのでこっそりと脱出しようと試みたけど、腕が外れない。
首を動かして時計を見やればAM6時と表示されていた。
それはいつもの私の起床時間より30分ほどオーバーしていて、あ、これ誰か起こしに来たらダメなパターンだ。と、慌てて背後の男に声をかけた。
「ねぇ、ちょっと起きて?なんでこんな時間までいるの?」
「んー…」
「ちょっと力込めないでよ、痛い痛い痛い!」
拷問が始まったかと錯覚するほど肋骨をギューッと締められて、思わず彼を足蹴にしてしまった。
おそらくは脛…所謂弁慶の泣き所。
お陰で腕の拘束は即座に無くなった。
「Больно(痛い)!エリ、酷いよぉ〜!」
そんなに力いっぱい蹴った訳じゃないけど、情けない声で酷い酷いと詰められる。
「ごめ、いや、もとはといえばヴィクトルが私を締め殺そうとしたせいでしょ!?」
「No!そんなことしてないっヌレギヌだよー」
「変な日本語覚えてるのやめてよ、だいたいなんで私の部屋にいるの?」
「えー、だってエリが寝てたから?」
寝てたから?と言われてもよく分からないんですけど…
「あ、エリ、金賞おめでとうー」
「ありがとう」
私の両手を彼のそれが包み、チュッと音を立てておでこにキスが降りてきた。
ふにゃんと締りのない顔でお祝いされて、なんともむず痒い。
脅されてたのが夢だったのかと思うほど穏やかな…まるで恋人同士のような空気が流れる。
「えっと、手離して?お手伝い行かなきゃだし、こんなところ誰かに見られたら困る」
「照れてるの?可愛い」
「違います!裸の男とベッドにいる所を起こしに来た人に見られたくないの、だからもう部屋から出ていってよ」
「大丈夫だよ、エリは疲れてるから今日お手伝いお休みってマーマとパーパが言ってたから誰も起こしに来ないさ、俺あと30分は余裕あるから一緒に二度寝しようよー」
「え?そうなの?じゃあいいや…ってそんな訳ないでしょ!」