【HQ】脳内妄想‐sharing.・繋がる縁の円‐【R18】
第7章 「タダイマ。」(黒尾鉄朗/episode0)
電車の中では、言い合ったりはせず。
離島の方で出会った人達の事とかの、思い出話をした。
鉄朗は、ずっと笑って聞いてくれている。
本当に、この人の隣は心地好い。
手から伝わる体温と、相槌を打つ際に漏らす声が、帰ってきた事を実感させてくれた。
幸福な時間は過ぎるのが早くて、あっという間に自宅の最寄り駅。
慣れた道を歩いていると、感極まって涙が出てくる。
私が泣いている理由も鉄朗はお見通しのようで、下手な慰めとかも無く、家まで無言で歩いた。
その所為で、扉を開けて中に入った瞬間という、自分が望んでいたシチュエーションでも、タイミングを逃し。
結局、タダイマは言えないまま荷物の整理作業に入った。
気付くと、結構遅い時間になっていて、軽めの夕食を摂る。
「そういや、事後報告になるんだが。」
「何?」
「俺の部屋で使ってたベッド、買い換えたわ。」
「あー…。別に良いよ。鉄朗の家にもなる訳だし、使いやすい物に買い換えるくらい。」
少し言い辛そうな顔をしていたから、何の報告かと思ったら、そんな事か。
確かに、両親の思い出が詰まった家の物を勝手に換えられたのは嫌だけど。
それに、ずっと縛られていたら、これからの鉄朗との思い出が作れなくなるから。
あっさりと許したのが意外だったのか、何回か目を瞬かせている。
それも、ちょっとの間の事で、すぐに口元を歪ませた厭らしい笑顔を浮かべた。
「キングサイズだから、2人で寝ても余裕だぜ?」
「…え?」
「どうせ、荷物も片付いてねぇんだし、今日から一緒に寝ような。」
「いや、ちょっと待て。もしかして、そのつもりでキングサイズのベッド買ったの?」
「何?きとりサンは、新婚早々から別で寝たい訳?」
「まだ結婚してないからね。ちょっと、落ち着こう。」
幾ら何でも、今日は急過ぎる。
心の準備的なものが出来てないから、お断りしようと思ったけど。
「初夜まで待て、は聞かねぇぞ?」
どうやら、拒否権は存在しなかったようだった。