【HQ】脳内妄想‐sharing.・繋がる縁の円‐【R18】
第7章 「タダイマ。」(黒尾鉄朗/episode0)
待ちに待った、今日という日。
やっと、私は東京に帰ってきた。
あの家には、待ってくれている人がいる。
早くタダイマを伝えたくて、電車に乗り換える為に駅へと急ぐ。
ホームに上がる階段の前に見慣れた人影があって、立ち止まった。
向こうも私に気付いて、目が合う。
今日、戻って来るのは伝えてたけど、迎えは頼んでいない。
あの家の扉を開けて、一番にタダイマって言いたかったから。
予定外の事が起きてて、戸惑いで体が固まった。
そんな私の状況は、お構い無しに近付いて来た彼は口元を緩めて笑う。
「おかえり、きとりサン。」
「…な、なんで、居るの?」
「迎え以外の何があるよ?」
「そりゃ、分かってるけど…。迎えいらないって言ったじゃん。」
「俺が来たかったんだよ。早く会いたかった、っつー理由は受け付けない?」
「私が家に着くの待っても、数時間しか変わらないよ。」
思い描いたシチュエーションじゃないにせよ、タダイマを言うチャンスをくれたのに、口からは疑問が先に出た。
お陰で、タイミングを逃して言えないまま、普通に会話をしてしまった。
予定を狂わせられた苛立ちと、久々に顔を見た照れがあって、可愛いげのない事ばかりがポンポンと言葉になる。
「こんなトコで言い合ってても仕方ねぇだろ。帰ろうぜ?」
私が悪態を吐くのは照れ隠しだと知っている鉄朗が気分を害した様子は無く。
私の荷物を当たり前のように持って歩いていく。
すぐに、その背中を追って荷物を奪い返そうとした。
「別に、荷物持ちなんか頼んでないし。」
「俺が持ちたいんだよ。これできとりサンの手ェ空くだろ?」
また、可愛くない台詞が飛び出して、意地っ張りな自分に嫌気がさしてきたけど。
やっぱり、鉄朗の方は気にしてない素振りで、空になっていた私の手を握った。