第1章 別に好きなんかじゃない
最近、長谷部の様子がおかしい。
話しかけるとおどおどして、挙動不審になる。
……何かしたかな?
「おーい、主!」
元気そうな声に振り向くと、愛染と蛍丸がいた。
「聞いたぜ主、また何か新しいモン買ったらしいな」
「確か、炊飯器? だっけ。なんかご飯炊くやつ」
この本丸が全体的にそうなのだが、情報の早いこと早いこと……多分、鶴丸あたりからだろう。
「いつの間に知った!?」
「長谷部から」
蛍丸が答える。
「なんか、すごい楽しそうだったけど」
「いつもの倍以上、主、主って騒いでたよな」
さすがは主お世話係! いや、感心している場合ではない。
「長谷部って今どこにいる?」
「自分の部屋にこもってるんじゃないか?」
「ありがとう」
長谷部の部屋に向かうと、中から物音がするので、やはりいるのだろう。
「長谷部ー」
障子を開けると、何やら作業をしている長谷部がいた。
「主、どうされました?」
……意外と普通だな……。
「んー……暇潰し」
これくらいしか言い訳が思い付かないとは情けない……。
「そうですか……ああ、主にお渡ししたい物があるんです」
と言って戸棚から取り出したのは、小さな桜色の箱。
「ありがとう! 開けてみるね」
そっと開けると、
「ヘアピン?」
白い小さな花がついた、可愛らしいデザインのものだ。
「万屋に行った時、主に似合うかと思って買っておいたんです。いつも耳にかけていて、何回も落としているでしょう?」
「いつの間に……ありがとう、すごい嬉しい」
私がいつも髪を何回もかけ直してるの、見てたんだ。さすがは近侍というべきか。
さっそく髪を留めてみる。……うん、飾りが邪魔になることもない。
「よく似合っていますよ」
長谷部が微笑む。
「あの……主」
「ん?」
「好きだと言ったら……迷惑ですか」