第1章 別に好きなんかじゃない
「すいはんき……ですか」
言いづらそうに口を動かす長谷部。
「そう! 当番の負担を減らそうと思って!」
私は長谷部に炊飯器のなんたるかを説明してやった。
「それは便利ですね! しかし……小判は、」
「大丈夫、足りる」
ギリギリだが、そこは言わないでおく。
「じゃあ、万屋行くか」
私は立ち上がり、長谷部を振り返った。
「ほら、早く」
大変な事になった。
主と万屋へ、二人きりだ。
「これ安いけど、小さいんだよね……もう少し大きい方がいいよね、長谷部」
突然名を呼ばれ、心臓が口から出そうになる。
「っ、あ、はい、いいんじゃないですか!?」
「……大丈夫?」
「主、そんな冷たい目で見ないでください!」
落ち着け俺、落ち着け俺。主にばれないよう、小さく深呼吸する。
「本丸、いっぱいいるからね。大きいのをいくつか買わないと」
「それではかなり値が張りますよ」
「値が張るくらい平気だよ。小さいと時間かかるし」
主は一番大きな炊飯器を選び、五つ買うと言った。
「五つも!? そんなに……」
「だって皆、いっぱい食べるでしょ? 短刀と脇差で大食い競争してるし、槍は丼で食べてるし。岩融なんか土鍋で食べてるんだから。いつかは茶碗も買うつもりでいるよ」
「主……」
よく見ているものだ。俺が感心している間に、さっさと購入してしまった。小判千枚以上は無料配送とのことなので、手ぶらで帰る。
「これで少しは楽になるかなー」
主は嬉しそうに笑っている。本丸に帰るまで、俺はその横顔を見ていた。
「ただいまー」
帰ると、鶴丸と大倶利伽羅が出迎えた。
「おお、主。万屋か?」
「うん。炊飯器買ってきた」
主が炊飯器を説明してやると、「そりゃいいな」と頷いた。
「当番が楽になる。な、伽羅坊?」
「……別に」
大倶利伽羅はぷいと横を向く。