第1章 別に好きなんかじゃない
瞬間、指先に痛みが走り赤が広がる。とっさに口にくわえる。
「主? ……っ、血が」
口から外すが血は止まらない。深かったか。
「絆創膏もらってくる」
私は指をおさえ台所を出た。
しばらく歩いていると、長谷部に会った。嬉しそうに笑いかけてきたが、私の指先を見て血相を変える。
「主、指先が……! どうなさったのです!? ……まさか敵襲、」
「落ち着け!」
私は長谷部を声で圧した。
「しかし……俺の大切な大切な主が血を流していては落ち着けません」
「大丈夫だから落ち着け! ……めっちゃ痛いけど」
「痛い!? やはり大丈夫ではありません、薬研を」
「痛いのは治らないから我慢! あと薬研いらない、絆創膏貼れば何とかなる!」
指先には神経が集中しているから、痛いのは仕方ない。
「絆創膏、広間の棚だよね」
「はい」
長谷部に確認を取り、私は広間へ急いだ。
広間には誰もいない。ひとまず、現世から持ち込んだティッシュで血を拭き、棚から絆創膏を出して貼る。
「……一期に迷惑かけたかな」
私は再び台所へ向かった。
「主。血は止まりましたか」
「大将、包丁で切ったんだってな?」
一期一振と並んで作業をする薬研の姿があった。
「指先は痛むからなー」
薬研が手際よく野菜を鍋に入れ、醤油をたらす。
「下ごしらえしとこうと思ったら、切っちゃってさ。ごめん一期、迷惑かけて」
「迷惑などかけていませんよ、お気になさらず」
一期一振はまたひとつ鍋を取り出した。
「また鍋?」
「いえ、米を炊くんです」
水を入れ、計りながら慎重に米を入れる。そして釜戸に火をくべ、鍋をかける。かなり大変そうだ。
「……一期、もしも水と米の分量が分かって頼んだ時間に米を炊いてくれる設備があったら、どう?」
私が声をかけると、「それは素敵ですな」と顔を輝かせた。だがすぐに
「しかし、そのような物は本丸にありません」
と俯いた。
「あるんだなぁ、それが」
私は満面の笑みで言った。
一期は「え?」と不思議そうな顔をし、薬研に「いち兄、味噌取ってくれ」と言われあわてて作業に戻った。
私は頭の中で小判の枚数を数えていた。