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【刀剣乱舞】とある主お世話係の恋模様

第1章 別に好きなんかじゃない


「長谷部、台所ってどこだっけか」
「左に出て、突き当たりを右に曲がってください。中庭を突っ切るのもありですよ」
「分かった、ありがとう!」
パタパタと足音が遠ざかる。
審神者は、圧倒的に女性が多い。そして交代も多い。それ故長いことこの本丸にいる俺は、主が交代した時も、誰であろうと何ら変わりなく接する事が出来るようになった。周りから絶世の美女と称されていた主も、お世辞にも美しいとは言えない主も、媚びを売る主も。
だから、今更このような、悪く言えば小娘に心をかき乱されるとは思ってもいなかった。
前任が実家を継ぐとかで交代した、まだ審神者歴一週間足らずの少女。本人は「19歳はもう立派な大人の女性なの!」とキレていたが、最年長が1000歳を越え最年少が320歳前後とされる(あまりに古く皆自らの年齢を覚えていないし、書物も的確ではない)本丸の者、もちろん俺を含めて、19歳など赤子同然である。
彼女の名を、という。
「あれ長谷部君、まだ告白してないの? 取られちゃうよ」
燭台切がクスクスと笑うが、俺はそれを「うるさい」と一蹴した。
「別に好きじゃない」
「そんな意固地にならないの。あの子、働き者だから本丸の人気者だよ。早くしないと」
それだけ言うと、去ってしまった。



「主、何をしておられるのですか?」
台所で作業をしていると、声をかけられた。振り返ると、品行方正そうな長身の水色さん。
「一期一振か。今日の献立、手間かかるモンばっかじゃん? 食事当番大変そうだし、下ごしらえしとこうと思って」
「それはそれは……ありがとうございます」
今日の当番表には、一期一振と薬研藤四郎の札がかかっていた。
「いいよこれくらい、主だし」
私は顔の前で手を振った。一期一振は穏やかな笑みを浮かべ軽く頭を下げると、台所の隅の棚を漁りはじめた。やがて、大きな鍋、それも一般家庭には無いようなものを取り出した。そして私を見、いたずらっぽく笑った。
「主がそうなさるなら、当番の私もしなくては」
鍋に水を入れ、野菜を手際よく切る。私もそれにならい、一期一振には程遠い手際で野菜を切りはじめた。
「あれ、水少なくない?」
「野菜から水分が出るので、少ない位で丁度です」
女子力高いな。……なんか負けた気がする。
くそう、私だって!
私は手を速めた。
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