第1章 再会の裏話
眠りこけた女性が1人の店内。
戸締まりもせずに去る事なんか出来ず、暇潰しがてら木兎さんと彼女が飲み食いしたであろう皿やグラスを纏める。
流石に許可なしにツケ場に入るのは気が引けて、それを彼女と逆の端に置いておいた。
「…ん、う…。」
暫く経って、聞こえてきた唸り声。
その元である女性を見ると、目が開いていて私を見ている。
「…天使?」
喋ったと思ったら、空想上の生物を呼んでいた。
寝惚けているのか、酔いが覚めていないのか。
心配になって顔を近付ける。
「ねぇ、天使なら、伝えてよ。木兎に、好きだって。」
どうやら、私をそれと勘違いしているようだ。
そんなの、自分で伝えて頂きたい。
私は、自分の恋ですら、言葉に出来ずに離れて、後悔を続けているような女だ。
任されても、出来る訳がない。
「かおるさん。寝惚けてますか。酔ってますか。」
どっちであろうと、覚めて貰う為に声を掛けた。
彼女は、何回か瞬きをしてから頭を起こす。
「…誰?」
「…熊野りら。」
「…え。りら、って…。」
聞かれたから、名前を答える。
私の名前に覚えがあるのか、かおるさんは固まって。
「…勝ち目、ないじゃん…。」
静かな空間だからこそ聞こえるような、小さな声で呟いた。