第1章 再会の裏話
ただ、じっと木兎さんを見る。
この人は、視線に負けて勝手に話を始めるタイプだ。
「…あのコ。かおるちゃんって言うんだけどな。俺と話すの楽しーって言ってくれんだ。
俺と会えなくなんの、嫌だから店を辞めたくねーって泣いてたんだよ。」
木兎さんは、カウンターの端の女性を眺めながら話してくれた。
分かったのは、彼女が木兎さんに好意を持っているという事。
だったら、余計にこんな事をしてやるべきじゃない。
気持ちに応えず、傍にいるだけなんて残酷な事をしちゃ駄目だ。
「木兎さん、優しさは人を傷付ける事もありますよ。」
「…それ、りらちゃんが言うか?」
諭そうとしてみたけど、言い返された。
考えてみれば、私も木兎さんと同じ事をしている。
木兎さんから、何回も告白されたけど一度も頷かず、それでも家族みたいな人だと言って、傍にいる。
更に言い返せる程に口が上手くない私は、黙ってしまうしか出来なかった。
「ま、どうするか決めんのはりらちゃんだけどな。俺は、りらちゃんと会いやすくなるから、この店を手伝ってくれたら、嬉しいぞ。」
それは、私がやっている事以上の残酷さである。
「俺、明日ー、いや、今日か!練習あっから、帰るな!とにかく、かおるちゃんと一回話してやってくんね?」
何も言えない私を置いて、最後まで騒がしかった木兎さんは帰っていった。