第23章 期間限定sharing.
私が皆を避けているのは、相手側も気付いている。
だから、あえて私に会わないように向こうもしてくれていた。
でなければ、同じ家で暮らしていて、ここまで顔を合わせないなんて有り得ない。
その筈だった、のに。
バイトに行こうとする私を追い掛けてくるような足音がする。
本日、平日。
時間、昼前。
普通の会社員の3人は仕事。
交代制の仕事の黒尾さんは、夜勤の為に寝ている。
誰が来たのかは明白だ。
腹の立っている相手だから、顔は向けない。
「姉ちゃん、あのさ…」
「何」
久々に会うのに、緊張するでもなく以前と変わらない声音で話してきた。
「今日、バイト終わったら飲み行かない?」
重要な話でもあるのかと思えば、意味の分からない事を言われて。
無視して家を出ようとする。
「最近、りんさんと嫌な空気作ってたのには、理由があったの。だから、話だけでも聞いて欲しい」
腕を掴まれて、反射的に顔を見ると涙目で懇願された。
この状態で断ったら、こっちが悪者である。
「それなら、帰ったら聞く」
「外で話したい。他の人がいない場所がいい」
「…分かった。バイト終わったら連絡する。でも、飲みは行かない」
「酒の勢いがないと、普段の癖で、誤魔化したり、嘘吐いたりしちゃいそうなんだよね」
この子が飲みながらまともな話が出来るとは思わないけど。
そこを突っ込んだって、何かしら理由を付けて、自分の都合が良い方向に持っていくに違いない。
言い合いはするだけ無駄。
それに、皆に仲良くしていて欲しいのは、私だけのエゴじゃなくて木兎さん夫婦の願いでもあると知った今は、みつとりんさんが険悪な雰囲気を作り出した理由があるなら、知りたいと思った。
了解を示して頷くと、腕から手が離れていく。
「姉ちゃん、いってらっしゃい」
出掛ける人を送り出す言葉。
それに返す言葉は知っている。
「いってきます」
そして、このやり取りには、帰った時に期待している迎えの言葉がある事も私は知っている。
普通の家庭なら、日常の一場面。
でも、これは、もうすぐ無くなってしまう日常。
そこに気付いてしまった瞬間だった。