第6章 ご紹介します
ちょっと長引くだろうと思っていた説教は、意外な形で終わる。
黒尾さんが、何かに気付いたようで、私のシャツを掴んだ。
「…お前、コレ、なんだ?」
さっきまでの説教とは明らかに違う、腹の底から出ているような低い声。
首元から服の中を覗くようにして示されたのは、鎖骨の辺りに残っている紅い小さな痣。
木葉さんはマーキング癖でもあるのか、私にこういうのを付けるのが好きだ。
「…これは…。」
「木兎の知り合いって、まさか男じゃねぇよな?」
説明しようとした言葉を遮られる。
「女性で…。」
「じゃあ、その店の客か?」
「違いま…。」
「だったら、誰にこんなモン付けられたんだ?」
黒尾さんにしては珍しく、私の話を聞いてくれない。
こんなに、興奮しているのを見るのは初めてだ。
質問に答えても、言葉の途中で止められてしまうから、意味がない。
答えない事で抗議を試みると、溜め息のような長い息を吐いていた。
「…お前、そういうの、気軽にすんなって言ってんの、まだ分かってねぇの?」
少し落ち着いたのか、勢いを無くした声。
「彼氏が…付けました。」
「…は?」
「お付き合いしてる方がいます。気軽に、身体を許した訳じゃありません。」
今なら聞いてくれると思ったから、説明と誤解を解く為に、はっきりと言葉にする。
黒尾さんは、驚いたように目を見開いていた。