第21章 企み秘めたる結婚式
‐黒尾side‐
センパイに連れられて入った部屋。
真ん中に独り暮らしにしては大きめのテーブル。
その上には、刺身やら焼いたのやら…とにかく、魚だらけの料理。
センパイは、料理が苦手だから、さっきの漁師とやらが拵えたもんだろう。
どうして、人を呼んでまで、こんなにも沢山の品数を揃えたのかは分からない。
怪しくしか見えなくて、睨むようにセンパイの顔を見た。
「…えー。クロ、マジで今日が何の日か忘れてるの?」
「何の日って、赤葦達の結婚…。」
俺達には関係がない記念日を答えようとしたが。
言葉を最後まで吐く前に、全てに気付いてしまう。
そういや、招待された時に、何で今日なんだよって思ってた。
センパイの居るこの地での挙式を選んだ理由も、日付が今日である理由も。
俺へのプレゼントのつもりだって言うなら、合点がいく。
自分達の記念日を使ってまで、人の恋路をアシストしようとすんのは、あの夫婦らしいやり方とすら思えてきた。
それなら、有り難くそれにはノらせて貰う事にして。
「センパーイ、何か俺に言う事あるんじゃね?」
もう険悪な空気を作るつもりは無いと、からかい混じりの声で示す。
「さっきまで忘れてたクセにー。…ま、良いけどさ。
クロ、誕生日おめでとう!」
明るい声で聞こえてきた祝いの言葉。
それは、約束の日まで、俺が30になるまで、後1年を切った合図になった。