第21章 企み秘めたる結婚式
‐黒尾side‐
帰る、という言葉は…。
もと居た場所に戻るって意味で。
帰ろう、という声掛けは…。
一緒に、そうしようという誘い文句。
センパイの口から出た、無意識の短い台詞は、それだけで、俺の気持ちを満たしてくれた。
センパイは、俺と一緒に、同じ場所に戻りたいと願ってくれてる。
なら、わざわざ例の約束を覚えてるかなんて、確認しなくていい。
現実問題として、どっちかが仕事辞めるなりしなきゃ、叶わねぇ話だしな。
今は、しっかりと繋がれたこの手の感触があるだけでいい。
お互いに口を開かなくても、分かり合えてる気がしてた。
…だが、期待だけをさせてくれねぇのが、このきとりサンって人らしく。
帰り着いた家。
鍵も使ってないのに開いた玄関の扉。
並んでたのは、男物の小汚ねぇ靴。
瞬時に、黒い何かが頭の中を支配する。
「…ちょっ!クロ?なんか、さっきから、ちょいちょい怖い感じするんだけど?」
本能で感じ取ったのか、大袈裟なくらいビクッと跳ねた肩。
この場で押さえ付けてやろうと、手を伸ばした時…。
「きとりちゃん、帰ったのかい?」
家の奥から、どう見ても俺等からすると親世代っつー見た目のオッサンが顔を出した。