第5章 初デートは甘くない
そのレストランは、料理と引き替えに料金を払うシステムで。
入場料を出して貰っているのもあったから、ここはご馳走しようと思っていたけど、払わせて貰えず。
それどころか、私の分まで一緒に会計されたものだから、更に微妙な雰囲気になって。
席に着いて、食事を始めても、いただきます、の挨拶以外は言葉を発していない。
こういうのを、喧嘩してるって言うんだろうか。
このまま、お互いに何も言わずに食事が終了して解散とか、嫌だ。
会話の糸口を探して、木葉さんの方を眺める。
食事中なんだから、食べ物の話で、良いだろうか。
「…何?」
どうやら見すぎてしまったようで、木葉さんは食事をしている手を止めた。
「…何を、食べてるのかと。」
話し掛けてくれたチャンスを逃したくなくて、思い付いたまま返す。
木葉さんが、ちょっと気まずそうな顔をした。
変なものを、食べているようには見えないけど、答えづらそうだ。
「…マグロカツ。」
だからか。
他の魚は、当たり前のように食用として見ていた私が、唯一観賞する形で眺めたもの。
それを、食用扱いした時から雰囲気が悪いから、言いたくなかったのか。
それは、それ。
これは、これ。
木葉さんは、気にしたみたいだけど、マグロを食べてるからって、また雰囲気が悪くなる気はしない。
「木葉さん、私が食べてるもの、分かりますか。」
スプーンの上に、わざとらしくエビやイカを掬って見せた。
私も、さっきまで生きている所を見ていた魚介類を食べている。
食用にもなるものを見たら、食べたくなるのは普通の事だと思った。