第19章 たまには女子だけで
なんという名案なんだろう。
私達の前だけなら、月島くんの嫌な視線が向く事はない。
りんさんも受け入れやすい提案の筈だと思ったのに。
「…嫌。無理。私、切り替え上手くないから、絶対に本人の前でボロが出る。」
首を振って完全拒否された。
それで、気まずい沈黙が訪れる事は無く…。
「寧ろ、ボロ出せば?」
いやに楽しそうな明るい声音で、みつが喋り始める。
「それで嫌な顔されても、言い訳出来るじゃん。同じ姓になるのに名字呼びは違和感あるから、私達の前では名前呼びしてるって。
夫婦のお互いの呼び方って、それぞれあるだろうけど、その話するきっかけにもなるし。」
何かを企んでるんじゃないかと警戒したけど、聞いてみれば悪い話でもない。
「それとも、どうしてもツッキーくんを名前で呼びたくないの?」
今一度、りんさんの本心を探るように問い掛けるみつの声。
皆の視線が、りんさんに向いて、それから逃げるように顔を背けられてしまった。
「…私、秋紀に名前を呼んで貰えなかった期間が、あります。お前としか呼んで貰えなくて、私を個人として認識してないんじゃないかって、辛かったです。
だから、きっと、ちゃんと話もせずにアナタと呼ぶ方が、月島くんだって傷付く。月島くん個人を、月島蛍を認める意味でも、名前で呼んでみませんか。」
私の経験なんて、りんさんには関係がないし、何も響かないかも知れない。
でも、言わずにはいられない。
私にとって、大切な人達が、こんな事で傷付け合うのは見ていたくなかった。
りんさんの目が、私に向く。
そして、長い溜め息を吐き出した。
「まさか、りらに諭されるとは…ね。そういう、人の気持ちとかに鈍いと思ってたんだけど…。」
気持ちが晴れたような、スッキリした顔をして笑っている。
頷いたのは了解を示す合図だろう。
それで、この話はどうにか終着を迎えた。