第5章 初デートは甘くない
電車に乗って、空いている席に並んで座る。
勿論、手は繋いだまま。
平日の下り線は空いていて、小さめの声なら会話しても大丈夫そうだ。
「…どこに、行くんですか。」
「内緒。着いたら分かるぞ。」
そりゃ、着いてからその場所が何かなんて問い掛けたりしないだろ。
分かって当たり前だ。
サプライズ系は、苦手なのを知らないんだろうか。
「嫌な顔ー。俺とのお出掛け、そんな嫌?」
デートが嫌な訳ではない事に気付いて頂きたい。
「違います。ただ、先が分からない状態が苦手なんです。」
ちゃんと伝えないと、嫌な気分のまま着くまで待つ事になる。
それで、納得してくれたのか手を少し強く握り直された。
「じゃ、ヒント。お前が、多分嫌いじゃない場所。」
私が、嫌いじゃない場所。
騒がしかったり、人が多かったりはしない場所だろう。
「…あ。」
車内にある、路線図を見て気付く。
きっと、ここだ。
「水族館、ですか。」
「おぅ。」
この電車が停まる駅に、水族館前がある。
その水族館は、メインになる展示がマグロで、イルカ等々の哺乳類がいない。
ショーとかも、勿論ない。
だから子連れには、あまり人気がなくて、平日なら空いている筈だ。
それに、私は魚が好きである。
普段、魚を捌いているから、それが生きて泳ぐ姿は感動する。
嫌いじゃないどころか、好きな場所をピンポイントで当ててくれていた。