第18章 only one
元から準備していた料理は終わり、後はさっきの真鯛だけ。
ここで、その道のプロが居る事を思い出す。
「秋紀、ちょっと。」
「ん、どうした?」
その人をキッチン側に呼んだは良いものの、すでに飲んでいるのか、缶を手に持っていた。
これで刃物を握らせるのは危ない。
「私、鯛は捌いた事無い。教えて。」
あくまでも包丁を持つのは自分にして、指導の元で処理に取り掛かった。
だけど。
慣れない魚相手に苦戦して、手に変に力が入ってしまって。
「りら、左手!」
危険を知らせる秋紀の声を聞いた時には、刃先が手を掠めている。
幸いな事に、深くは切らずに済んだけど、血は出ていた。
「誰か救急箱ー!りらが手ぇ切った!」
焦ったようにリビング側に呼び掛ける秋紀。
今でも変わらず、私に対して過保護な元同居人達は、大騒ぎである。
キッチンから強制退場させられ、消毒やら、絆創膏を貼るのやら、誰がやるかで競っていた。
それくらい、自分で出来るというのに、だ。
ここまでされると、若干鬱陶しくもある。
こういう時は、昔と同じく見てるだけの月島くんの対応が私にとっては一番楽で。
やたらと何かしようとしてくる人達から逃れて、隣に座った。