第17章 彼氏トレード
‐木葉side‐
りらが、俺の何気無い一言で人生を決めたのなら。
俺は、それを叶えてやりたい。
調理に近いバイトとか、手伝っている店とかあっても、りらが抱いていた筈の夢。
調理師、とはちょっと違うなって。
だから、その場を作ってやれるまでは、待って欲しい。
職人の修行っつーのは男の俺でさえキツいもんだったから、他の苦労は絶対にさせたくねぇ。
その決意を伝えただけで、泣くか?
嬉し涙には見えなくて不安になる。
「…泣きたくて泣いた訳じゃない。なんか、苦しい。」
必死に目元を擦っても、止まらない涙に本人もイライラしてきたようだ。
こんな状態でも、表情筋が笑顔を作ろうと動いて唇の端を若干上げてる。
不機嫌を表す笑顔を、意識的に作る事を繰り返したから、反射的に笑っちまうんだろうな。
そこまでりらを苦しめてるのは、間違いなく俺の言葉。
内容的なもので苦しむと言ったら、結婚を先延ばしにしようとした事だろう。
苦労させたくねぇのは、本心だが。
その為に、今現在こんなに苦しませて良い訳はねぇよ。
「りら、さっきの撤回させて。俺と結婚しよう。一緒に、店やってこ?」
だから、これでいい。
そう思って、新たな決意を固めた。
…筈、だったんだが。
「無理。」
普通じゃねぇコイツの中で、苦しむ要素はそこじゃ無かったらしく。
一言で断られて、こっちまで泣きたくなった。