第17章 彼氏トレード
2人が居なくなった後、私達は私達で、ちょっと真剣な話をしていた。
何の脈絡もなく、秋紀が自分のやりたい事ついて話を始めたのだ。
独立して、自分の店を持つ。
その為に、今やれる事の一つとしてホールの業務をやったりしているらしい。
他にも、やらなきゃならない事は山積み状態で。
私に迷惑掛けたくないから、結婚してくれと言わないという事。
私の方も、あの家を出たくないから結婚まではしたくなくて。
婚約の更に予約で満足していた筈なのに、胸の奥底が締め付けられるような感じがした。
それを振り払う為に、中途半端な状態で放置されていた食材に触れる。
「…何作るつもりだったの。」
話を続けたら苦しくなる気がして、別の話に切り替えた。
海老やイカ等の海鮮、蓮根とかゴボウの根菜。
果てには納豆とか、海苔とか。
何を作りたかったのか、想像が出来ない。
「…ん?天ぷら。」
「何故それ。」
「揚げ物が綺麗に出来たら、料理上手な感じがするから、だと。」
それなら煮物だろ。
ここには居ない人物への突っ込みは、心の中でしておいて。
半分も終わっていないだろう下拵えの続きを始めた。
隣で秋紀も作業をしてくれたけど、さっきの会話の名残なのか落ち着かず。
少しだけ距離を取るように横にずれたりするけど、私の心情を知ってか知らずか、離れた分だけ近寄ってくる。
邪魔だと言いたかったのに、何故か鼻が詰まっていて声が出なかった。
「…なぁ。」
声を掛けられて反応を示すように顔を向ける。
やっぱり何故だかは分からないけど視界が滲んでいて。
「なんで、泣いてんだよ?」
その何故を解決する言葉が、秋紀の口から出てきた。