第17章 彼氏トレード
私は何も言わなくていい、そう伝える合図だと分かって頷く。
すると、赤葦さんは私が感じた、双子のように似ている私達の見分けがつくって部分を驚いたように言った。
男の方は、それも自慢になると思ったのか、分かって当たり前くらいの顔をして返す。
そこで、赤葦さんの表情に変化が起きた。
眉間に皺を寄せて、明らかに分かる不愉快を表現した顔。
隣の席の2人は、それにビクついて固まった。
「じゃあ、あの動画はみつじゃないと気付いてましたよね?」
声は変わらず平坦で、穏やかにも聞こえるけど。
醸し出す雰囲気は、無言を許さない強制力があった。
男の方が慌てたように肯定を口にする。
余程赤葦さんが怖いのか、慰謝料を取られずに離婚する為の良いネタだったとか、ペラペラと色々喋っていた。
「…そうですか。有難う御座います。」
男の話が一通り終わると、赤葦さんの顔が無表情に戻る。
「…本当に、有難う。」
唇だけ動いて吐き出された声は、恐ろしい程に低く響いた。
2人が逃げるように席を立つと、もう興味が無いとばかりに赤葦さんは私の方を向く。
「りら、巻き込んでごめんね。」
「いえ、私は大丈夫です。」
私に向けられた声は通常と変わらず、やっと安心する事が出来た。