第17章 彼氏トレード
「…へ、くちっ!」
赤葦さんと歩いている最中、何の前触れも無く、くしゃみが出る。
鼻が調子が悪いとかでも無いのに、何故なんだ。
秋紀が萌え尽きて、悶えているなんて事も知らないから、悪寒が走るのは風邪をひいたと思った。
赤葦さんは音に反応したのか、私を眺めながら鞄を漁ってポケットティッシュを取り出す。
「はい、鼻かんで。」
そして、子どもにするかのようにティッシュを私の鼻に当ててきた。
「親ですか。」
いつもなら黒尾さんに使っているこの言葉を自然と吐く。
「親だって、成人した娘にこんな事はしないと思うけど?」
嫌味のつもりだったのに正論で返されて、言い返す言葉が思い浮かばなくなった。
本当にそんな汚い事をして貰うのは嫌だから、ティッシュ越しに鼻を掴んでいる手に触れる。
意図を理解してくれたようで、ティッシュを残して手が離れていった。
自分で鼻をかむと、目の前には開いたビニール袋が差し出されている。
「ゴミ、入れて。」
用意が良すぎだ。
黒尾さんは、どちらかと言えば父親的だけど、赤葦さんは母親のようだ。
女子力の高さを私の前で発揮してどうする。
まぁ、性格は男みたいだと言われている私がティッシュはともかく、ゴミ袋まで持ち歩いている訳はなく。
有り難く使わせて貰う事にした。
今は助かったのだから、赤葦さんが女っぽいのではなく、単に人の世話を焼いたりするのが癖になっているのだと思う事にする。
木兎さんとか、ティッシュどころかハンカチも持ち歩かないだろうし。
そこまで考えが及ぶと、物凄く納得してしまった。