第16章 複雑に絡む
そういえば、玄関に靴があったな。
泊めるつもりで家に上げた事から、そういう話になったのだと聞いていたし。
居ても、不思議ではない。
そんなに驚くような事では無かったから、気にせず横を通り抜けようとした。
だけど、腕を掴まれて引き止められる。
「りら。僕ね、君の事が好き。」
サラりと、何でもない事かのように告白されて、意味が分からず目を瞬かせた。
こんな事を冗談で言うような人だっただろうか。
一応でも彼女の前で、他の女に告白なんて、質が悪すぎる。
りんさんの方を見ると、今にも泣き出しそうで。
腹が立って、怒ろうと思ったけど。
「…だったんだ。」
わざとらしく、遅れて付け足された言葉で怒る気は失せた。
「過去形。」
「そういうコト。君は、木葉さんトコに早く帰ったら?」
「そうする。」
月島くんの1番は、すでにりんさんになっていると分かって、安心して家路につく。
運命の相手と結ばれているという、見えない赤い糸があるとするならば。
黒尾さんの過去と複雑に絡んでいたりんさんのそれは、やっと解けて、月島くんに繋がった。
解けたその糸のもう一端。
黒尾さんの糸は、誰に繋がるんだろうか。
その相手が、あの人であれば良いと、願わずにはいられなかった。