第16章 複雑に絡む
‐月島side‐
別に、この人の事は嫌いではない。
かといって、好きな訳でも無かったんだけど。
自分だけを見詰める瞳は、手放したくなくて。
「そんなに、僕の事が好きなら、付き合ってあげても良いですよ?」
この眼を、他の人に奪われないように、自分に縛り付けてやろうと思った。
「…遠慮します。りらが自分のにならないからって、代わりにされるのは嫌だ。」
この人は、素直さが足りない。
きとりさんの代わりは良くて、りらの代わりは駄目な意味が分からない。
この可愛いげがない口を塞いでやろうかとも思った。
でも、どうせなら、欠片も可愛いと思えない、この人の口から、ちゃんとした告白をさせたい。
「僕、黒尾さんみたいに優しくないんで。そういう態度ばかり取るなら、本当に離れますよ?」
顔から手を離して、一歩下がる。
僕らしくない、賭け。
性格上、意地になって返してくる可能性の方が高いのなんて、分かってる。
「一生、1番になれない人生なんか嫌だ。もう、誰かの代わりなんてしたくない。それが、辛い事だって知ってるから。」
ほら、やっぱり。
離れたくない、なんて言ってくれる訳がない。
それでも、その眼は未だに僕を見ていた。
「一生1番になれない、なんて誰が決めたの?僕だって、一生不毛な片想い続ける気、ないから。」
僕を見る眼を手に入れたい。
彼女に、自分だけを見詰めさせたい。
そう思った時点で、欲しいのは、この人になっていた訳で。
ただ、そんな事を素直に口に出せる性格じゃなく。
いつかは1番にしてあげるとばかりの含みを持たせた言葉を送る。
「…1年。」
「何が?」
「1年で、1番になれないなら、付き合わない。私、結構イイ歳だから、先を考えると、それくらいしか待てない。」
「貴女の努力次第デショ。」
「月島くんも、りらを諦める努力して下さい。」
「…はいはい。」
「はい、は一回でいい。」
お互いに、素直じゃなくて可愛いげがない。
言い合いの果てに、条件付きで、この人が自分のものになった。