第16章 複雑に絡む
‐月島side‐
感情的になっている女性程、面倒臭いものはない。
声は冷静を保ったように見せ掛けてたけど、零れている涙が、彼女の状態を物語っている。
ここで、慰めてやるのが普通なんだろうけど。
生憎と、ひねくれものの僕には出来ない事で。
「泣くくらいなら、やらなきゃ良かったんじゃない?バカじゃないの?」
口から出たのは、追い討ちを掛けかねない言葉。
それで見せ掛けすら冷静を保つ事が出来なくなったようで。
「じゃあ、どうすれば良かったのよ!?昔の事で、現在の私の気持ち否定されて!」
ヒステリックな言葉と共に、勢いよくこっちに向かってくる。
胸元を掴まれて、力任せに引き寄せられた。
振り払う事も出来たけど、それをやらなかったのは…。
「私は、アンタが好きなんだよ!そんな相手に、過去の未練を誤解されたくなんか、ない!」
彼女の眼が、僕だけを映していたから。
僕がいくら欲しても手に入れる事が出来なかった、りらの瞳と同じものが、僕の為に、ここにある。
突き放してしまったら、この眼が逸れて、違うものが映されてしまう。
いつまでも、この瞳だけは自分のものにしておきたくて、彼女の顔に触れる。
親指で目尻を拭うと、自分の状況に気付いたのか、恥ずかしげに視線が逸らされた。