第16章 複雑に絡む
‐りんside‐
会社の飲み会以外で、つまり、プライベートで月島くんと飲むのは初めてだ。
つい、楽しくなってきて、いつも以上のウザ絡みをしている自覚はある。
だけど、相手はしてくれてるし、私の眼を見て会話してくれてるから、それだけで良かった。
なのに、りらが一緒に飲むってなったら、自分の隣に座らせたいのか、私と離れてスペース空けようとした。
だから、ちょっと意地悪な気分になって、空いた部分を埋めるように移動する。
瞬間的に、ムッとしたのは分かっても、口には出さないから無視をしておいた。
そんな事、しなきゃ良かったと、すぐに後悔した。
りらが腰を下ろして、鉄朗と会話している。
月島くんは、その姿を私に向けてくれたものより、強い視線で眺めていた。
自分の隣に来なかった苛々もあると思うけど。
それより強いのは、鉄朗に向けられた真っ直ぐな瞳への羨望。
あの眼が、月島くんは欲しいんだ。
怒りと憧れが混ざったような、言い表しがたいその表情を見ていたくなくて。
少しでも、その眼を私に向けて欲しくて。
「ごめん。なんか、酔いが回ってきたみたい。肩、貸して貰える?」
酒の所為にして、寄り掛かってみる。
「それなら、帰れば良いんじゃないデスカ?」
すぐに引き離されるのは予想してたけど、実際にやられると辛い。
でも、その後の行動は、予想外で。
立ち上がった月島くんの手が差し出されている。
「…この時間から女性に一人歩きさせる気ありませんから。」
意味が分からなくて、手を眺めていると、理由を添えられる。
手を貸してくれるようだったから、掴まらせて貰って立ち上がった。
「月島、朝帰りしてもいいぜ?」
「黒尾さんの方が、朝までに帰って来られます?この状況で。」
「…あ。やっぱ、俺がりんサン送るわ。」
「僕が送るんで、結構です。」
鉄朗と、ちょっと話をしているのが聞こえるけど、頭には入って来ない。
会話が途切れて、店を出ても、何を話していいか分からなくなって、無言で歩いていた。