第16章 複雑に絡む
2番目の女、所謂セカンドだとか、愛人。
こういうものに、とても嫌悪感がある。
なのに、りんさんに対して、嫌だという感情が生まれなかった。
自分でも、不思議な事なのだけど。
この人は、この人なりのやり方で、あの家の絆を護ってくれてた事実だけで、良い気すらしている。
でも、疑問に思う事はあって。
「きとりちゃん優先を自分で望んだのに、それを理由に別れたんですか。」
「…うん。人間って欲深いものだから。」
どうにも、理解出来なかった部分を聞いてみた。
りんさんは、少しだけ悲しそうな顔をして、話を続ける。
「鉄朗って父親みたいなトコ、あると思わない?」
「そこは同意します。」
「さっき話したけどさ、私も早い内に父を亡くしたから。父性をアイツに求めちゃった。私も、鉄朗の家族になりたかったの。
恋人としての情は私に与えてくれたけど、結局は何より深い家族の情はくれない。無い物ねだり、ってやつかな。それで、私は賭けに負けた。」
「賭け?」
「そう、賭け。」
りんさんの視線が部屋の中を彷徨う。
それを追い掛けるように部屋中を見回した。
1人で暮らすには、広すぎる家。
入った時に感じた、所々に使用感があるけど綺麗な部屋。
本当に、この家で日常を送っているにしては、整いすぎている。
まるで、誰かが来るのを待っているような。
その時の為に、綺麗に整えられているような。
そんな、印象を持っていた。