第16章 複雑に絡む
‐りんside‐
当時、まだ大学生だった彼に営業を掛ける訳にはいかず、ただメッセージをやり取りする関係になっていた。
客にはならないんだから、面倒なら相手してくれなくて良い、って言ってくれてた。
でも、同居している女の情報を知って以来、その人を放っておけないと私も思ってしまった。
家族を失う辛さは、経験しなきゃ分からない。
その辛さを埋めるのが、周りに居る人間なのだろうけど。
その、熊野きとりの場合、両親が同時に居なくなった上に兄弟は無し。
同じ辛さを味わっていない周りに何を言われても聞き入れられず、人避けした彼女は友人すら失っていた。
そんな人から、彼を離れさせたくない。
だから、2人の関係を肯定する人間になってやった。
他人の意見なんか気にするな、ってのは言うのは簡単でも、実行するのは難しい。
否定ばかりされていたら、いつか熊野きとりから黒尾鉄朗を奪う未来が待っている。
そうなったら、再び独りになってしまった熊野きとりが何をするか分からない。
自分も、それなりに若い内に父を亡くして。
家族を失う辛さを知っているからこそ、彼女を、2人の関係を、護りたかった。
優しく、残酷な約束を2人が交わしていたと知るまでは…。