第16章 複雑に絡む
一度キッチンに戻って、仕上げをした料理を手にリビングに再び入る。
慣れない人との2人きりでの食事の筈なのに、彼女が話をリードしてくれたから、気は楽だった。
話の内容は、黒尾さんや木兎さんの近況を聞かれたりするだけで。
恋の話なんて言っていたけど、自身の恋愛について語る事は無く。
私の恋愛について聞く訳でも無く。
淡々と、聞かれている事に答える作業的な会話だった。
「…ねぇ。鉄朗と熊野きとりは、上手くいってるの?」
食事が終わり、会話の途切れた隙間。
片付けをしようと、立ち上がった時、静かに願いを込めたような声が聞こえる。
この人は、2人が別れた事を知らないのだろうか。
それを、私が言っていいのか迷うところだ。
「…なんで。」
「何が?」
「なんで、そんな事を聞くんですか。」
迷った挙げ句、返したのは正直に感じたままの疑問。
今度は、彼女の方を迷わせてしまったようで、瞳が揺れていた。
「…りら、絶対に口外しないって約束してくれる?後、話を聞いても余計な事はしちゃダメよ。アンタが関わると、話が拗れそうだから。」
覚悟を決めたように真っ直ぐと私を見ている。
その真剣さで、2人の現在を聞くのには深い理由があるのだと分かって、はっきり頷いて返した。